コツコツ積み上げたものが一瞬にして崩れ去る瞬間の絶望~ひきこもり先生より~

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NHKのドラマ「ひきこもり先生」は、ひきこもりをテーマにしたドラマではありますが、同じマイノリティとして自閉症の息子・太郎をめぐる問題に通ずる点もあり、とても親近感を感じつつ観ているドラマです。

全5話なので、早くも今週土曜日が最終話となりますが。

ひきこもり先生

11年間のひきこもり生活を経験した主人公・上嶋陽平は、ひょんなことから公立中学校の非常勤講師となり、不登校の生徒が集まる特別クラス「STEPルーム」を受け持つことに。複雑な家庭環境、経済苦、クラスの中での居場所のなさ…一筋縄ではいかない中学生の心に深く分け入り悪戦苦闘! これは、新時代への不安と向き合いながら社会とのつながりを模索する大人と、子どもたちの物語。「生きていける場所」を求める日本人へのメッセージを送ります。

ひきこもり先生 – NHKより転載

 

ひきこもりの子を持つ親の気持ちも少しわかる気がした

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このドラマの主人公・上嶋陽平(佐藤二朗)は自身が11年ものあいだひきこもり生活を続けていました。

実は陽平は結婚もして子供(娘)もいたのですが、娘が5歳のときに家に引きこもるようになり、そのことがきっかけで妻は娘を連れて家を出て行ってしまいます。

陽平は自分の母親(白石加代子)と一緒に暮らすようになり、以降11年間ひきこもり生活を続けますが、支援者の支えもあり、部屋から脱出することができました。

脱出した後は「客と話をしない、サービスもしない」という、一風変わった焼鳥屋の店主として働き始めます。

上嶋陽平(佐藤二朗)

客と話しをせずサービスもしない一風変わった焼き鳥屋「うめ」の店主。 11年間ひきこもりの生活を続け、3年前に部屋から脱出した“ひきこもりサバイバー”。母校である梅谷中学校の不登校生徒を受け入れるクラスの非常勤講師を依頼される。生徒が付けたニックネームは“ヤキトリ”。

陽平が引きこもり始めたのが38歳の時なので、11年の引きこもり+3年間の焼き鳥生活=現在52歳くらいなんですかね。

この陽平の母親を演じているのが白石加代子さんなんですけど。

上嶋美津子(白石加代子)

陽平の母。 ひきこもりだった息子を常に気遣い見守る。明るい母親だが、離れて暮らすゆい(陽平の娘)と陽平を会わせていいものか、思い悩んでいる。

息子のことをいつも明るく見守っているんですよね。けどもう、結構いい年齢ですよね、52歳の息子の親というと。

息子が引きこもり始めてから11年のあいだ、息子自身も苦しかったとは思うけれども、お母さんもものすごく苦しかっただろうと思うんです。

うちみたいに発達障害や知的障害の診断が下りている場合は公的支援もあるけれども、引きこもりの場合はそうした支援は民間の団体を頼るしかないんですよね。

そして当然ながら金銭面の支援もないわけで…。

そういう事を考えると、人的にも金銭的にも公的支援を受けられる自閉症育児はよっぽど恵まれているな、と思わずにはいられません。

ドラマの中の母親・白石さんは、そうした境遇を嘆く様子も見せず、息子に対して明るくふるまっているのです。

だからこそ、11年間の引きこもり生活にピリオドを打ち、働き始めた時の喜びはひとしおだっただろうと。

そして3年後、陽平は不登校生徒を支援する学級の非常勤講師として働き始めるわけです。

学校に通うようになった息子を見つめる、お母さん(白石さん)の眼差しが、それはもう、本当に嬉しそうで。

それまでの苦労も、辛い日々も報われたような、そんな晴れやかな顔をされていました。

私、事情はまったく違いますけど、なんとなくお母さんの気持ちがわかるような気がしました。

うちの太郎が1歳半検診で「自閉症では?」と指摘されてから約14年。

絶望しかないと思われた幼児期を経て、様々な支援を受けながら、太郎の成長とともに少しずつ生活のクオリティも上がっていきました。

私の心に棲みつく悪魔

少しずつ、スローステップであっても、未来に期待を持てなかったあの頃に比べれば、できる事が増えていって、他害(人を傷つける、噛みつく、物を壊すなど)も無くなってきて、私の表情にも笑顔が戻って来た、明るく笑えるようになってきた。

そんな自分とオーバーラップして、うん、気持ちわかる、何歳になっても子供が前に進んでいく様子を見るのは嬉しいものだよね、と。

 

天国から地獄。地獄からの希望の光。

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ところが第4話で。

教育委員会から、学校のいじめの実態について聞き取り調査を行われた際、陽平が「うちの学校にはいじめはない」と嘘をついてしまうんですよね。

同級生にいじめられて登校するのが辛くなった生徒に陽平(佐藤二朗)が言った「無理して学校に来なくていい」という言葉が波紋を呼び、学校を休む生徒が続出。いじめゼロ、不登校ゼロを方針に掲げる榊校長(高橋克典)は、教育委員会の聞き取り調査を受ける陽平に「この学校にはいじめがない」と証言するように迫る。生徒の将来のためと説得された陽平は、教育委員会にうそをついてしまい、それを苦に再び家にひきこもってしまう。

権力に屈してしまった自分を歯がゆく思う気持ち。

いじめられて苦しい思いをしている生徒を救うどころか、「いじめはない」と嘘をついてしまう自分への怒り。

結局自分は何もできないという、諦め、悲しみ。

様々な思いが、陽平の心の中に渦巻いていたのだと思います。

家に戻った陽平は部屋の中で暴れ、慟哭し、再び部屋にひきこもる生活に逆戻りしてしまうのです。

 

その時、部屋で暴れる息子の様子を、廊下でうかがっていたお母さん(白石さん)の、苦痛でくしゃっとゆがめた、その表情が…。

 

またなの?

もう、よくなったと思っていたのに、またなの?

またやるの?

 

これは太郎が、成長して、他害をしなくなったと思っていた頃に、同級生に噛みついてしまったときに私が思ったことです。

 

こんなこともできるようになった、あんなこともできるようになった、もう大丈夫!

太郎は最近本当に見違えるようになった。

前を向いて、どんどん進んでいこう、そんな太郎を支えていこう!

…からの、他害。

 

天国から地獄です。

 

ひきこもり先生の、白石さんの、苦痛に歪んだ顔を見た瞬間、涙腺が崩壊しました。

そこからは自分でも「こんなに泣くか」ってくらい、ずっと号泣しながらドラマを観続けました。

もうこらえられなかったんです。

コツコツと積み上げてきたものが、一瞬にして崩れ去ってしまう、その瞬間の絶望を。

もう大丈夫、と思っていたあの世界は、砂上の楼閣だったんだな、って。

この十数年、何度かそうした瞬間が、ありましたね…。

 

でもドラマでは、再びひきこもった陽平のことを心配したひきこもり仲間の友人や、学校の生徒たちの励ましにより、陽平はふたたび学校へ行くことを決意します。

そして久しぶりに登校した際に「無理しないでくださいね」と声をかけられた陽平は言いました。

「無理します。しなくちゃいけないんです。ぼくはもう逃げません。学校を子供たちが安心していられる場所にしたいんです」

 

なんと陽平は以前よりもっと強く、前を向いて歩き始めたんですよ( ゚д゚)

学校でこの台詞を言った陽平の姿を、お母さんの白石さんに見せてあげたいと思いました。・゚・(ノД`)・゚・。

 

そうだよ、うちの太郎だって、きっとまた、這い上がっていけるよね。

私もまた笑える日がくるよね。

そう思ったら、また泣けてきちゃって。・゚・(ノД`)・゚・。

「ひきこもり先生」を観ている間中、泣きっぱなしでした。

 

私のこの記事は「ひきこもり先生」の本筋とはかけ離れていますが、いじめと不登校を題材にしたこのドラマは、主人公の陽平をはじめ、生徒たち一人一人の心情が丁寧に描かれています。

どうしてひきこもることになったのか、それが決して甘えではないということがよくわかるドラマです。

発達障害もそうですが、自分に関係ないと思うから見ない・興味ない、と考えずに、まずは「知る」「知ろうとする」ということが大切だと思います。

私も心のどこかで「ひきこもり」は甘えている部分も多少はあるのでは…と思っていたことは否めません。

このドラマを観て「無知は罪」だな、と思いました。

 

このドラマを積極的に観ているのはひきこもりに関係する人が多いかと思いますが、むしろ関係ないと思っている人にこそ観てもらいたいドラマなんでしょうね。

 

●追記●

Twitterで主演の佐藤二朗さんが触れていたこちらの記事を読んでみたら、本当にものすごく素晴らしい記事でした!

【佐藤二朗】NHK「ひきこもり先生」に反響続々…不登校児への「来なくていい」と「逃げてもいい」の大きな違い|日刊ゲンダイDIGITAL (nikkan-gendai.com)

ひきこり先生のこと、ひきこもりの生徒の心情など、わかりやすく書かれてありました。

この記事を執筆したSALLiAさん、私が以前アメブロで「素晴らしい記事を見つけました!」と紹介させていただいたことがあり、とても素晴らしい文章を書く方なんだな…とあらためて思いました( ´∀`)b

 

「ひきこもり先生」はNHKオンデマンドで視聴可能です!

ひきこもり先生 NHKオンデマンド

 

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コツコツ積み上げたものが一瞬にして崩れ去る瞬間の絶望~ひきこもり先生より~” に対して2件のコメントがあります。

  1. こー より:

    こんにちは
    ひきこもり
    きっと理由が有るんでしょうね。
    小さな事でも本人にしたら重要な事てあるものね。
    人間て複雑ですね。
    こうやってコメント書いているけど、読んで気分悪くしている人が居るんじゃないか?
    サナさんにも不愉快な思いをさせているんじゃないかと?
    心配になることが有りますよ。
    言葉が足りないし、文章力もないので(^^;
    そんなときは、ずばっと指摘してください。

    1. 稲倉サナ より:

      「ひきこもり先生」ではひきこもる理由は本当に様々でした。
      そしてそれは特別な理由ではなくて、誰にでも起こりえることだと。人間は完全に一人では生きていけないから、生きることは修行なんだと。
      私はこーさんの言葉を不快に思ったことなど1度もありません(^^)
      むしろいつもハッとさせられたり、シミジミしたり、クスッと笑ったり。
      言葉の裏にあたたかさを勝手に感じています(=゚ω゚)ノ
      記事の最後に追記で紹介していますが、「来なくていい」と「逃げてもいい」の大きな違い、という日刊ゲンダイの記事。
      言葉の選び方ひとつで意味がまったく違ってくるんだな…と、文章を書く時は私も気をつけなくてはいけないな、と思いました。

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