【成年後見制度】親亡き後、知的障害の子に後見人は必要か?~前編~

X(旧Twitter)で、成年後見制度についての記事を書いて欲しいというリクエストがあったので、早速取り組んでみました。

うちの息子(重度知的障害者)も成人年齢を迎え、20歳になり、障害年金を支給されるようになったり、各種手当・支援が本人の所得で判断されるようになったりと、ある程度の経済的自立の見通しは立っているんですよね。そうなると、あとは施設やグループホームの入所が叶えば、私たち親がいつ亡くなっても安心……とはいかず、両親ともに亡くなった後に、住む所とお金を確保できたとしても、お金の管理をはじめとして、これまで親が担ってきたあらゆる「管理」や「判断」のような部分を、親の死後は一体誰が担っていくのか。親が亡くなった後は、成年後見人を立てるのは必須なの?でも、これまで親が子のために判断していたようなことを、成年後見人…例えば、弁護士が後見人に選任されたとして、その弁護士が子の特性を考慮し、管理や判断をしてくれるのか。たとえば、「この子は食べるのが好きだから、1か月のお小遣いは外食が何回かできるくらいには確保した方がいいな」って。やってもらえる気がしないんですが😂

それ以前に、成年後見人って何をしてくれる人なのか?お金の管理だけなのか?謎は深まります。

今回の記事では、こうした疑問に答えるべく、いろいろ調べてみました。本当は、実際に制度を利用している方の生の声や、親亡き後の知的障害者が、実際にはどのくらい成年後見制度を利用しているのか、といったあたりも明らかにしたかったのですが、そこまで踏み込んだ内容にはなっていません。ただ、いろいろ調べた結果、なんとなく、どうするべきか、どうすればいいか…といったことは想像できるようになりました。内容が濃いので、前編・後編の2回に分けてお送りします🖐️

 

「成年後見制度」っていったい何なの?

成年後見制度とは、認知症の方、知的障害のある方、精神障害のある方など判断能力が不十分な人の財産管理や身上監護を、代理権や同意権・取消権が付与された成年後見人等が行う仕組みとして、平成12年4月1日からスタートした制度です。家庭裁判所が成年後見人等を選任する「法定後見」とあらかじめ本人が任意後見人を選ぶ「任意後見」があります。「法定後見」は判断能力の程度に応じて、「後見」「保佐」「補助」があり、また「任意後見」は、本人の判断能力が十分なうちに、任意後見受任者と契約を結び、判断能力が不十分な状況になったときに備えるものです。つまり、任意後見制度では、契約時に本人が意思能力を有していることが前提となります。

ちなみに、後見・補佐・補助の違いですが、目安としては以下のような感じ。重度知的障害の息子は間違いなく「後見」です。保佐は軽度~中度、補助は境界~軽度みたいな感じですかね。といってもIQだけで判断できないので単なる目安です。

種類 本人の判断能力 援助者
後見 判断能力を欠くのが通常の状態 成年後見人
保佐 著しく不十分 保佐人
補助 不十分 補助人

 

成年後見人・保佐人・補助人のいずれが選任されるかは、申立てをする人(例えば私たち親)が決めるのではなく、裁判所が本人(障害のある子ですね)の状態(判断能力など。どの程度の支援が必要なのかなど)をみて、後見・保佐・補助のいずれが必要かを判断して、選任するということです。つまり、成年後見制度の申立てをしても、知的障害が軽めの子であれば、後見人ではなく補助人や補佐人が選任されることもあるかと思います。補助人・保佐人も根本的には成年後見人と同じで、本人ができない部分を補ってくれる人です。補助・保佐の詳細については、ここでは割愛します。

…と、ここまでが一般的な話です。一般的な話だとよくわかりづらいと思うので、ここでは、補佐・補助ではなく、後見(成年後見人)が必要になると思われる、重度寄りの中度・重度・最重度の知的障害のある人(子)の設定で話をすすめますね。

まず、「任意後見」と「法定後見」の何が違うの?という点について。

決定的な違いは、「任意後見」だと、自分が選んだ人を後見人にすることができるという点です。これは大きいですよ。たとえば、親がまだ元気なうちなら、親を後見人にする、きょうだい児を後見人にする、といったこともできるわけです。ところが、「法定後見」の場合は、後見人を選ぶのは家庭裁判所です。一応、後見人の選任をお願いする際に(成年後見制度の利用申立てをする際に)、「この人を後見人にしてほしい」という、後見人の候補者を記載して提出することにはなっているのですが、たとえばちょっとした財産がある場合などは、成年後見人を自分(親)を候補者として出しても認められず(親を後見人にすれば財産を着服する可能性もあると捉えられる)、第三者の後見人(士業などの専門家)が選任される確率が高くなるようですね。こうなると、結構揉めるようですよ。親と後見人との間で意見が合わず。詳しくは後述しますが。

それなら「任意後見」にすればいいじゃない?

…と思いますよね。でもこれ、残念ながら誰でもできる制度ではないんです。任意後見人制度を使えるのは、本人(つまり障害者本人)が、意思能力を有している場合に限るんですよね。本来この制度は、「自分が認知症になったときには、この人を後見人してほしい」という事を、認知症になる前の段階で設定しておくような感じの使われ方を想定しているんです。

じゃあ「意思能力」って、どんだけー?

…と思いますよね。意思能力の判断基準は「行為が行われた時点において、行為者がその法律行為の意味や結果を理解し、適切に判断できる精神能力を有するかどうかで判断されます」とのことで、小学校低学年程度の知能が一つの目安とされる、とのこと。ただし画一的な基準はないので、ケースバイケースのようです。しかし、一つ言えるのは、重度知的障害で幼稚園生程度の知能しかないうちの息子は、間違いなく意思能力がないと判断されるはずです😂

とまあ、うちの息子のように、成年(18歳以上)で意思能力がない場合、任意後見制度は使えないので、法定後見制度を利用するしかないわけです。

つまり、法定後見制度一択。

…しかしですね。実は重度知的障害であっても、任意後見制度が使えるケースもあるんです。それは、子が未成年の場合なんです。子が未成年のうちは親権のある親が、子の法定代理人として、任意後見人契約を締結することが可能だからです。(ただし、親も意思能力が必要ですが😂)

なので、お子さんが成人する前(18歳になる前)に、親を任意後見人として選任してもらうという人も、少なからずいるようですよ。子は成人したら親は親権を失うので、子の代理人となって契約等をすることはできなくなりますが、子が成人する前に自分が子の任意後見人になってしまえば、成人後も法的な契約等も、代理人として行うことができるんですから。

それなら皆、子が未成年のうちに任意後見人になっちゃえばいいんじゃない?

…と思いますよね。ところが、そうか簡単にはいかないんですね。メリットの反面、結構なデメリットもあるんですよ。これについては後述しますね。

 

で、成年後見人って何をやってくれるわけ?

一般的に、成年後見人は本人の代理人として、本人の身上監護(介護サービス利用契約、診療契約、施設の入退所契約など)や、財産管理(預金の出し入れ、不動産の管理・処分など)について行う、とありますが…。

以下は、厚生労働省の成年後見制度についての広報サイトに掲載されていたものですが、

成年後見人等は、ご本人の生活・医療・介護・福祉など、身のまわりの事柄にも目を配りながらご本人を保護・支援します。
具体的には、ご本人の不動産や預貯金等の財産を管理したり、ご本人の希望や身体の状態、生活の様子等を考慮して、必要な福祉サービスや医療が受けられるよう、利用契約の締結や医療費の支払などを行ったりします。なお、食事の世話や実際の介護などは、一般に成年後見人等の職務ではありません。
また、成年後見人等はその事務について家庭裁判所に報告するなどして、家庭裁判所もしくは成年後見監督人等の監督を受けることになります。

成年後見人等は、ご本人の意向を尊重し、安定した生活を送ることができるよう、ご本人の身上に配慮する必要があります
また、財産を適切に管理する義務を負っていますので、成年後見人等がご本人の財産を不適切に管理した場合には、成年後見人等を解任されるほか、損害賠償請求を受けるなど民事責任を問われたり、業務上横領などの罪で刑事責任を問われたりすることもあります。

出典:成年後見人等の選任と役割 | 成年後見はやわかり

これを読む限りでは、単に財産の管理や契約等の事務的な作業をする人というよりは、思ったよりも、子(障害者)本人の意思を尊重し・配慮をしてくれそうな雰囲気を醸し出しているような…。冒頭に書いた「この子は食べるのが好きだから、1か月のお小遣いは外食が何回かできるくらいには確保した方がいいな」っていうのも、やってくれそうな感じがしますよね?

さらに、このサイトには成年後見人が選任された後に、こんなこと↓をしてくれるみたいな事も書いてあります。

●本人がどのような生活をしているか、どのくらい財産を持っているか調べて本人に合った生活のしかたやお金をどう使っていくかなどを本人の意思を確認しながら考える
本人の思いや生活の様子を考えて、必要な福祉サービスを利用したり、年金を受け取るために必要な手続を行ったりする

えっ、これが本当ならすごく(・∀・)イイ!!

すごく嬉しい!と思うんですが、実態はどうなんでしょうね?これについても後述したいと思います。

建前上は、成年後見人は、本人のことをよく知った上で、本人に合った生活が送れるように、本人に代わって法的な手続や管理を行ってくれるということなんですね。一方で、実際に本人のお世話をするのは(生活の細々とした面倒をみるのは)、施設やグループホームの職員さんであり、後見人はこの部分に関しては情報共有をするに過ぎない、と。

 

成年後見制度 よくある質問<Q&A>

でも、今一つ成年後見人って何なのかわからない!と思う方も多いと思うので、もう少し突っ込んだ内容も記載しますね。

✅成年後見人はどんな人が選ばれるの?

成年後見人等の選任に当たっては、家庭裁判所が、本人のためにどのような保護・支援が必要かなどの事情に応じて、本人にとって最も適任だと思われる人を選任します。申立ての際に、本人に法律上又は生活面での課題がある、ご本人の財産管理が複雑困難であるなどの事情が判明している場合には、弁護士、司法書士、社会福祉士など、成年後見人等の職務や責任についての専門的な知識を持っている専門職や、福祉関係の公益法人その他の法人が成年後見人等に選任されることがあります。成年後見人等を複数選ぶことも可能です。また、成年後見人等を監督する成年後見監督人等が選ばれることもあります。

なお、誰を成年後見人等に選任するかという家庭裁判所の判断については、不服申立てをすることができません。

具体的には、専門職後見人(弁護士・司法書士・行政書士・社会福祉士など) ・親族後見人(親・兄弟姉妹など)・市民後見人・法人後見人・社会福祉協議会・知人など。

 

✅成年後見人を指名することはできるの?指名した人が必ず選ばれるの?

成年後見制度の申立てをする際、申立人(例えば親など)は、申立書に誰を成年後見人にしてほしいか(候補者)を記載することができます。家庭裁判所では、申立書に記載された候補者が適切であるかどうかを審理します。その結果、候補者が選任されない場合があります。本人が必要とする支援の内容などによっては、候補者以外の方(弁護士・司法書士・社会福祉士等の専門職や法律または福祉に関する法人など)を後見人(保佐人・補助人)に選任することがあります。なお、後見人(保佐人・補助人)に誰が選任されたかについては、不服の申立てはできません。また、次の人は後見人(保佐人・補助人)になることができません。

(欠格事由のある人)
(1)未成年者
(2)家庭裁判所で免ぜられた法定代理人・保佐人・補助人
(3)破産者で復権していない人
(4)本人に対して訴訟をしたことがある人、その配偶者または親子
(5)行方不明である人

 

✅希望する人を成年後見人にできる方法はないの?

法定後見は裁判所を利用する手続きで、裁判所へ申立てをして後見人を選任してもらう必要があります。親自身が後見人の候補者として裁判所へ希望を申し出ることもできますが、後見人は家庭裁判所の職権で選任されるため、就任できるとは限りません。親亡き後が問題となる場合は、弁護士等の第三者が後見人に選任される可能性があります。

ただし、子どもが未成年の場合は、親権者が代理して任意後見契約を締結することができるとされています(任意後見制度)。

 

✅成年後見人の報酬はいくら払う必要があるの?

成年後見人等や後見監督人等の報酬は、本人の管理財産額に応じて裁判所が決定します(一般的に月額2万円〜6万円程度が目安であるとされているが、詳細は不明)。

また、報酬とは別に、申立て時に登記等の手数料がかかります。さらに、申立時に提出していただく診断書とは別に、家庭裁判所が医師に鑑定の依頼をして行われ(後見開始及び保佐開始の審判では原則としてこの鑑定手続が必要であると法律で定められています)、鑑定には申立てとは別に費用がかかります(鑑定費用は数万円かかるらしいが詳細は不明)。

 

✅お金の管理はどんなふうにやってくれるの?

成年後見人に適切に財産を管理していただくための一つの選択肢として、後見制度支援信託又は後見制度支援預貯金の利用を検討する場合があります。後見制度支援信託又は後見制度支援預貯金とは、ご本人の財産のうち、日常的な支払をするのに必要十分な金銭を預貯金等として成年後見人が管理し、通常使用しない金銭を金融機関が信託財産又は特別な預貯金として管理するものです。この仕組を利用することによって、成年後見人は日常的に必要な金銭を管理することになり、財産管理の負担が軽減されるとともに、家庭裁判所への報告も容易になるメリットがあります。
※後見制度支援信託又は後見制度支援預貯金は、成年後見と未成年後見において利用することができます。補助、保佐及び任意後見では利用できません。

 

✅本人の財産が多額にあるときに不利なことはあるの?

後見人(保佐人・補助人)に対する後見等監督は家庭裁判所が行いますが、必要に応じて、家庭裁判所が選んだ監督人に後見人(保佐人・補助人)を監督させる場合もあります。最近では、後見人(保佐人・補助人)による不正行為が社会問題となっており、家庭裁判所の後見等監督をより適切に行うために本人の財産額が一定額以上あり、後見制度支援信託・支援預貯金の利用がない場合に監督人を選任している家庭裁判所が多くなってきています。監督人には、弁護士、司法書士、社会福祉士等の専門職等、家庭裁判所が適切と認めた人が選任されます。監督人を選任するかしないかは、家庭裁判所の専決事項です。したがって、監督人の選任に対する不服申立てはできません。
監督人は、家庭裁判所に報酬付与の申立てを行い、家庭裁判所が報酬額を定めた場合には、その報酬額を本人の財産から受け取ることができます。報酬の金額については、裁判官が個々の事案の実情に応じて、対象期間中の事務の内容、本人の財産の内容等を総合考慮して裁量で決定するものです。

また、後見制度支援信託・支援預貯金を利用する場合であっても、通常、契約の締結に関与した専門職後見人又は監督人に対する報酬が必要となります。専門職後見人又は監督人に対する報酬は、家庭裁判所が、専門職後見人又は監督人が行った仕事の内容や本人の資産状況等のいろいろな事情を考慮して決めます。また、利用する金融機関によっては、管理報酬や口座開設手数料が必要となる場合があります。

…つまり、本人名義の財産が多額にあると、上記のように何かしら費用が余計にかかるということですね💦

また、成年後見人への報酬自体も、財産の額によって報酬額が決まるようです(もちろん、財産額が高額の方が報酬が高い)。

 

✅成年後見人は途中でやめられるの?

成年後見制度は一度始めるとやめることはできません。また、選任された後見人が気に入らないからといってチェンジすることもできません。(不正を働いた、不適切な行為の内容が重大すぎるときを除く)そのため、成年後見制度を利用する際は、そういったリスクも承知の上で申立てを行いましょう。

 

【引用元】成年後見はやわかり|厚生労働省 裁判手続 家事事件Q&A | 裁判所

 

以上が前編になります!

後編では、第三者が成年後見人となった場合のメリット・デメリット、親族(親やきょうだい児など)が成年後見人となった場合のメリット・デメリット、さらに、「親亡き後に、結局、成年後見人は必要なのか?」といったあたりを記事にまとめようと考えています。

~つづく~

 

【成年後見制度】親亡き後、知的障害の子に後見人は必要か?~前編~” に対して2件のコメントがあります。

  1. おばさん猫 より:

    ご無沙汰しております
    いつも為になるお話、ありがとう
    こざいます‍♀️。
    去年支援学校の研修で後見人のことを
    少しお話聞きましたが、
    まぁ分かり辛いです。
    そして、我が市(県では2番目に大きな
    町です)にはなりますが
    任意後見制度を利用している
    障害者の人数がゼロでした。
    良い制度でしたらみんな利用するはず
    なのに…しかも後見人を利用している方も
    少なかったです。
    友達のところはお父さんが亡くなって
    (友達の弟さんが障害があります)
    急いで後見人を付けた(運良く?お母さんが
    後見人になったようでした)と
    言っていました。
    子供が大きくなるのは嬉しい事ですが
    色々な困難が立ち塞がるので頭が
    痛くなりますね。

    1. 稲倉サナ より:

      コメントありがとうございます。
      成年後見制度、本当によくわからないし、障害者とその家族に全く寄り添っていないなと思います。
      両親のどちらかが生存し、子の世話を十分にできる年齢と認知力があれば、後見人をたてないという人が多いと思います。
      後見人を立てると報酬がかかるのはもちろんデメリットではありますが、それ以外に子のために子の口座からお金を引き出すこともできなくなりますから、とても面倒だと思います。
      ご友人のところは、お母様が後見人になったのですか?
      お父様が亡くなり、相続が発生した際は、ご友人の弟さんとお母様は利益相反の関係になるので、相続が終わるまでは弟さんには第三者の法定後見人が立ったはずだと思います。
      その後、お母様があらためて弟さんの後見人になるために申立てをしたのでしょうか?
      後編に書こうと思っている内容ではありますが、子が成人になり、親が親権を失ったとしても、たいていの事は親権のない親が代わりにできることばかりです。
      生活介護や作業所との契約、グループホームや施設との契約も、「保護者」という名目で親が子のかわりに署名・捺印して契約をすることができる事業所が多いと思います。
      銀行口座の開設などはできませんが、18歳までにそうしたことは済ませておけば、ATMでのお金の出し入れ、振込なども子のかわりに親がやれていますからね…。
      成年後見人が必要となるのは、両親が両方とも亡くなってしまうときかと思います。
      それでもきょうだい児がいれば、きょうだい児に親の役目を託すことはできますが。
      ただ、これを実際にきょうだい児に託すのか、託すのはなるべく避けたい…ということから、今の私たち世代の親は、自分たちが年老いた時には成年後見制度を使わざるを得ないと、薄々感じており、興味はある…といったところではないでしょうか。

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